2024.08.20
変わらぬこと、磨き続けること。玉乃光に宿る酒造りの精神。
今年創業350年を迎えた玉乃光酒造。紀州藩の第二代藩主、徳川光貞公より酒造免許を賜った御用蔵として歴史を刻み、京都に蔵を移してから70余年。まじめに実直に、手づくりの製法を守り続けてきました。
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全国でも珍しい全量純米吟醸蔵として知られる玉乃光酒造。米と麹、水だけでつくるシンプルな純米酒だからこそ、手づくりであることにこだわります。秋の朝、仕込みに追われる最盛期の蔵へ。その一つ一つの工程をご紹介します。
お米一粒ごとの状態に向き合い、仕上がりを見届けるために、玉乃光酒造では自社で精米を行なっています。多くの酒蔵が立ち並ぶ京都・伏見でも、精米所を所有するのはわずか数軒だけ。精米所を維持するにはコストもかかり容易なことではないですが、農家の方々が大切に育てた酒米を理想の形へ磨き上げることは我々の務めと考え、自社精米を続けています。
酒造りは夜明け前の朝5時から始まります。その日の仕込みの準備を整え、朝7時、甑(こしき)と呼ばれる蒸米機に蒸気を入れ、蒸米をスタート。約1時間後、蒸し上がった酒米は蔵人たちの共同作業で製麹(せいきく)室へ運ばれます。
日本酒造りの三本柱である「一麹、二酛(もと)、三造り」という言葉があるように、米麹づくりは酒造りにおいて最も大切な工程といっても過言ではありません。蒸米を製麴室へと運ぶ「引き込み」に始まり、「種切」「床もみ」「切り返し」「盛り」「仲仕事」「仕舞仕事」、そして、完成した米麹を製麹室から外に出す「出麹」まで、かかる時間は丸2日。昼夜問わず、手間ひまかけて米麹を育てます。
「一麹、二酛(もと)、三造り」の、「二酛」にあたる酒母づくりは、アルコールを生み出す微生物である「酵母」を大量に育てることが目的です。これは酒の母というべき土台となるもの。通常の酒母なら約2週間、生酛(きもと)造りという昔ながらの手法では4週間もの時間をかけて造られます。
酵母が完成したら、いよいよ「一麹、二酛、三造り」の「三造り」である醪(もろみ)の仕込みへ。ここで大切に守られているのは伝統的な「三段仕込み」による製法。原料を3回に分け、段階ごとにスケールアップしながら仕込む手法です。
1日目は酒母と水、麹、蒸米を混ぜ合わせる「初添(はつぞえ)」に始まり、翌日は原料を何も加えない日を設け、これを「踊り」と呼びます。3日目は「仲添(なかぞえ)」といい、初添の時よりも多い量の原料(米、水、米麹)を投入。4日目の「留添(とめぞえ)」ではさらに多くの原料を加え、その後3~4週間をかけ、泡の状態や音を聞きながら醸し具合を見守ります。「醪の声を聞く」大切な作業です。
醪から“酒”の姿へ。発酵を終えた醪はゆっくりと圧をかけてしぼり、酒と酒粕に分けられます。米と米麹、水だけでつくる純米吟醸酒の副産物・酒粕も、名だたる料亭に支持される上質なもの。玉乃光の酒粕は、世の発酵ブームと共に今後ますます注目を集めそうです。